2012年 05月 17日
先日の某プロデュース会社の建築家自己紹介プレゼンの際に学生時代の活動の例としてパワーポイント資料にも入れていたもの。 1994年度の日本建築学会設計競技の全国2等案 同じゼミ仲間3人で発表したもの。 お題「21世紀の集住体」に対して「“死者”の集住体」で答えたもので、残念ながら公開審査には出席しなかったが後に刊行された本によれば審査会は相当紛糾したらしい。 一部の(特に実務で設計をしている建築家)審査員からは「問題あり」「ひねり球」「1等にするのは危険」「課題を読めば生きている人間の空間を要求しているのは分かるはず」との意見が出たいわくつきの作品。 その中で上野千鶴子・石山修武の両氏は好意的に評価して下さったようだ。 プレゼン手法は今考えてもアナログで模型写真を切り貼りで背景写真に合成したもの。 さざなみの表情を出したくて夏休みの後輩の製図教室半分ほどを占拠して、スタイロ、段ボール、ポリ袋でプールを作って水を張り模型を浮かべて撮影した。スモーク替わりに皆んなでたくさんのタバコをふかしもした。 コンセプトの文章は自分が書いた。 ―海原に広がる霊柱は死者との交流を果たし、新しい生命を育む母体である。― 20世紀も残りわずかになり、この時代の価値観も大きく揺らいでいる。今世紀初頭のモダニズムのうねりは、20世紀特有の近代合理主義の思潮を生み落とし、それまでの地球コミュニティの姿を一変させた。そして大変革後の世界は様々な変化の後始末に迫られることになった。現代社会では死は生から隔離されている。村落共同体の崩壊した都市部では葬祭文化も廃れ、形骸化している。さらに土地不足から墓地はますます生者の空間から離れてしまっている。厚生省の調査によると2020年の日本人の死亡数は約162万人、住宅不足のこの時代、墓地は何処に立地すべきであろうか? 我々は都市に近い海上に墓地=“死者の集住体”を計画する。死は全ての人間が等しく共有できるものである。この墓地は個人のためのものではない。生者の空間(=都市)に対峙するこの墓は、絶えず我々に死の意味を問いかける。人は「死」という絶対の現実を通して「生」の意味を考えられるのである。 死者の住居=死者は海底に眠る―そして時を経て自然に還っていく 霊柱=ガラスの列柱から照射された光が上空を照らし人々に死を意識させる 礼拝堂=楕円回転体の中で生者は死者と交信する 学生時代でも集住についてまじめに考えていない訳ではなかったと思う。ただ学生最後のコンペ参加にあたって、収拾のつかない困難な現実を離れた理想を提示したかった。それが「逃げ」「ひねり球」と言われれば批判は甘んじて受けるつもりだったし、設計者として生者の空間を考え続けることは一生続けていくべきものだと考えていた。 身近なところでは、卒業設計も芳しい結果を残せず将来に不安を覚えていた頃、この受賞は建築設計界に進む上で大きく背中を押してくれた出来事だった。いくつか廻った入社面接ではコンセプチュアルであること、共同設計であることから余り評価されなかったところも多く、就職活動ではあまり効果はなかったが・・・。 確かに自分ひとりではこの作品は生まれなかっただろうが、自分がいなくてもこの案が生まれることはなかったと思う。 仲間二人はそれぞれ組織事務所に所属し設計活動を行っている。
by satoshi_suzuki-ao
| 2012-05-17 14:37
| 21世紀の集住体「光る海」
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